この記事では、SaaS業界・企業におけるカスタマーサクセスの役割やポジションの概要について解説します。
カスタマーサクセスの概要
SaaSやサブスクリプションモデルが台頭したことで、ソフトウェアサービスの利用は「保有」から「利用」へと変化しました。つまり、使いたい時だけ契約することができるようになりました。
これにより、「顧客に継続して自社サービスを使ってもらう」ことの難易度が上がったためカスタマーサクセスという専門組織が必要になっていきました。
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い
初学者にとって、カスタマーサクセスとカスタマーサポートは何が違うのか分からないでしょう。
簡単に、両者を比較すると以下のような違いで区別することができます。
カスタマーサクセス | カスタマーサポート |
能動的に顧客へ働きかけ、問題を発生させない | 問題が発生した顧客からの問い合わせに対応する |
カスタマーサクセスの本質は、問題が発生してからそれに対処する「守り」の姿勢ではなく、そもそも問題を発生させない「攻め」の姿勢、この違いがあります。
カスタマー(顧客)のサクセス(成功・成果)のために、能動的に自社サービスの使い方提案や、改善提案をすることがカスタマーサクセスの存在価値なのです。
カスタマーサクセスが担う役割
主に以下3つがカスタマーサクセスの役割として求められます。
役割①解約(チャーン)の防止・削減
SaaSプロダクトの多くは、サブスクモデルでの提供のため最も避けなければならないのがサービスの解約です。
解約のことを専門用語で「チャーン」と呼びます。プロダクトの特性や提供する業界によって多少の差はありますが、SaaSプロダクトにおけるチャーンレート(解約率)の目安は月3%です。97%の企業が継続利用している状態を目指すことが一般的です。
役割②売上の創出(クロスセル)
解約率を抑え、満足度高くサービスを利用してもらえるようになったら次はオプション機能の追加などのアップセル、もしくは自社で提供する別プロダクトの提案機会を創出(クロスセル)することが求められます。
マルチプロダクト展開していないSaaS企業の場合はクロスセルするものがないため、この辺りは所属する企業のSaaSプロダクトの戦略や成長性によって業務範囲は異なります。
役割③顧客からのサービスフィードバック収集
最後は、サービスを利用する顧客からのフィードバックをエンジニアなどの開発サイドへ渡し、改善のためのPDCAを回すこともカスタマーサクセスにとっての重要な役割です。これをプロダクトフィードバックループと呼びます。
ただし、すべてのフィードバックを受け入れるわけではなく、発生頻度の多寡や自社サービスの思想・コンセプトと照らし合わせながら開発サイドは改善の検討をします。
カスタマーサクセスを経験する3つのメリット
希少性の高い経験・スキルが得られる
海外では2010年前後からカスタマーサクセスが注目されはじめました。一方、日本国内にカスタマーサクセスの重要性が認識されはじめたのはここ数年のことです(2018年頃〜)。
そのためカスタマーサクセス職をがっつり経験したことのある人材は多くありません。その反面、サブスク型のサービスは年々増えていることもあり、カスタマーサクセス経験のある人材の市場価値は高く評価されます。
ITツールの利活用スキルが得られる
自社サービスを顧客に提供するSaaS企業でカスタマーサクセスを担う場合、契約ユーザーのログイン状況やサービスの利用頻度のログを閲覧することができます。そういったシステムを介して顧客へアプローチするためITツールの利活用は必須スキルです。
またエンジニアやプロダクト開発とも近い距離で働くことになるため、そういった中で自然とITツールへの知識や知見がたまりやすいのも特徴の一つです。
共感をベースとした提案スキルが身に付く
先述の通り、カスタマーサクセスは顧客の成功・成果に繋げるアプローチを能動的に行うことが求められます。自社サービスの知識はもちろんのこと、顧客の業務理解を高めることで「どのようにしたら業務改善(または売上拡大)につながるか?」のアイデアを掴むことができます。
この能力・スキルは、カスタマーサクセスのみならずセールス職でもプロダクト開発の現場でも活かすことができる汎用性の高いスキルです。
カスタマーサクセス職のおすすめ書籍3選
ここまでカスタマーサクセスの概要などを述べてきましたが、正直、自分が経験しないと想像できない部分が多々あるでしょう。その経験を補うための参考図書を3冊ご紹介します。
私は不動産SaaSプロダクトの事業開発をする上でカスタマーサクセスを兼務していた際に、以下の書籍から数多くのインスパイアを受けていました。
カスタマーサクセスの青本
”カスタマーサクセス〜サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則”
この書籍は、「カスタマーサクセスの青本」と言われる登竜門的な一冊です。カスタマーサクセスとサポートの違いとは?などのような基本的な概念を抑えるのはもちろん、「オンボーディング期・アダプション期」や「ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ」などカスタマーサクセスの役割やアプローチ手法などが紹介されています。
国内カスタマーサクセスの第一人者
国内のSaaS企業の一つ、Sansan株式会社のカスタマーサクセス部門を率いた山田ひさのりさんの著書です。日本国内のカスタマーサクセスの第一人者の山田さんの書籍だけあって、Sansan社の名刺管理ツール導入後にどのようなアプローチをしていたのかなど、超具体的なTipsが書かれています。
初学者にとっては、上記の青本よりもこちらの方がイメージがつきやすいでしょう。
最近、新版の「完全版 カスタマーサクセス実行戦略」も出版されました。
SaaSプロダクトにおけるカスタマーサクセスの重要性
こちらはカスタマーサクセス職フォーカスというよりは、SaaS企業のトップランカーであるセールスフォース社の思想に触れることができる一冊です。セールスフォース社が掲げるバリューのひとつに「カスタマーサクセス」があります。
すべての事業は顧客の成功のためにあるため、顧客の成功を測定しなければならない。という観点でセールスフォース社は事業設計をしています。そのおかげで日本国内でもSaaSやサブスクモデルのプロダクトが増えました。
そんな歴史の一端を知る意味でも読む価値のある一冊だと私は思います。
まとめ
簡単ではありますが、SaaS企業・プロダクトにおけるカスタマーサクセスの概要や重要性、市場価値の高さについて解説しました。